なぜ今、経理部門の働き方改革が求められるのか
「働き方改革」という言葉が浸透し、多くの企業で労働環境の見直しが進められる中、経理部門はその変革の必要性が特に高い領域の一つです。月末月初や決算期の繁忙期には残業が常態化し、特定担当者への業務集中(属人化)、紙ベースでの非効率な業務プロセス、度重なる法改正への対応など、さまざまな課題が山積しています。
これらの課題は、経理担当者の疲弊を招くだけでなく、ヒューマンエラーのリスクを高め、経営判断の遅れ、ひいては企業全体の生産性低下に直結しかねません。現代のビジネス環境においては、経営状況をリアルタイムで把握し、迅速な意思決定を下すことが企業の競争力を左右します。そのためには、経理部門が単なる「コスト部門」ではなく、経営を支える「戦略部門」へと進化することが不可欠です。
本記事では、経理部門が抱える具体的な課題を深掘りし、残業削減と生産性向上を同時に実現するための実践的な組織戦略を、業務プロセスの見直し、DX推進、アウトソーシングの戦略的活用といった多角的な視点から詳しく解説します。これらの戦略を通じて、未来志向の経理部門を構築し、企業全体の成長を加速させるヒントを提供します。
経理部門は、企業の資金を管理し、正確な財務情報を提供するという極めて重要な役割を担っています。しかし、その重要性ゆえに、多くの課題に直面しているのが現状です。
経理業務は簿記などの専門知識を要するため、対応できる人材が限られ、特定の担当者に業務が集中しがちです。長年同じ担当者が業務を行うことで、その人にしか分からない「ブラックボックス化」が生じやすく、以下のようなリスクを引き起こします。
担当者不在時の業務停滞 | 急な退職や病気、異動が発生した場合、業務が滞る。 |
ノウハウ共有の困難さ | 業務マニュアルが整備されていない場合、引き継ぎが難しく、教育コストが増大する。 |
不正発生のリスク | 業務プロセスが不透明なため、内部不正を見逃しやすくなる。 |
経理業務は、日次・月次・年次で発生する多岐にわたる定型業務を抱えています。特に月末月初や決算期は業務が集中し、長時間労働が常態化しやすい傾向にあります。
繁忙期の集中 | 月次決算、年次決算、税務申告、賞与計算、年末調整など、特定の時期に業務が集中し、残業が増加する。 |
人員不足 | 経理部門は直接利益を生み出す部署ではないと見なされがちで、人員が最低限に抑えられる傾向があり、一人当たりの業務負担が大きくなる。 |
コスト増 | 残業代の増加は人件費を押し上げ、印刷費や郵送費などの経費もかさむ。 |
依然として、請求書や領収書、伝票など紙ベースでのやり取りが多く残っている企業が少なくありません。
手作業による手間 | 紙の書類の作成、確認、回覧、ファイリング、保管には多くの時間と労力がかかる。 |
情報共有の遅れ | 物理的な書類のやり取りは、情報共有のスピードを阻害し、経営状況のリアルタイム把握を困難にする。 |
リモートワークの障壁 | 紙中心の業務フローは、テレワークや柔軟な働き方の導入を妨げる要因となる。 |
金銭を扱う経理業務では、「ミスが許されない」という大きな心理的プレッシャーが常に伴います。
慎重な作業による遅延 | ミスを避けるために一つ一つの作業が慎重になりすぎ、業務スピードが低下することがある。 |
ヒューマンエラー | 繰り返しの入力作業や複雑な計算などにおいて、人的ミスは避けられないリスクであり、その修正にはさらなる時間と労力がかかる。 |
経営判断への影響 | 経理作業の遅れは、経営層への情報提供を遅らせ、迅速な意思決定を阻害する。 |
電子帳簿保存法やインボイス制度など、税制や関連法規は頻繁に改正されます。
継続的な学習の必要性 | 法改正の内容を理解し、業務フローやシステムに反映させるための学習と対応が常に求められる。 |
罰則のリスク | 法改正への対応が遅れると、企業の信頼性を損なうだけでなく、罰則を科される可能性もある。 |
経理部門は、営業部門や調達部門など他部署からのデータ受領や確認、修正依頼など、社内各部署との連携が不可欠です。
コミュニケーションコスト | 各部署との情報共有不足や手続きの非効率性が原因で、確認作業や差し戻しに多くの時間が費やされ、業務全体が滞る。 |
これらの課題を解決し、持続可能な組織体制を構築するためには、抜本的な働き方改革と生産性向上のための戦略的なアプローチが求められます。
経理部門の課題を解決し、働き方改革を成功させるためには、多角的な視点からアプローチする必要があります。ここでは、そのための5つの柱を紹介します。
まず最初に取り組むべきは、現状の業務を「見える化」し、「ムリ・ムダ・ムラ」を排除することです。
現状把握と課題の洗い出し | 経理業務を日次・月次・年次で全て洗い出し、時系列に沿って業務フロー図を作成します。これにより、どの業務にどれだけの時間がかかり、誰が担当しているのか、ボトルネックはどこにあるのかを明確にします。 |
「やめる」「減らす」「変える」の視点 | 業務フローの中から、本当に必要な業務とそうでない業務を区別し、不要な業務は「やめる」、削減できる業務は「減らす」ことを検討します。例えば、重複作業や複数部署を介した非効率な承認フローなどを改善します。 |
フォーマットの統一とマニュアル整備 | 伝票や請求書など、各部門で異なるフォーマットを使用していると、経理部門での処理が煩雑になります。社内全体でフォーマットを統一し、業務マニュアルを整備することで、誰でも同じ品質で業務を行えるようにし、属人化の解消につなげます。 |
デジタル技術の導入は、経理業務の効率化と生産性向上に最も効果的な手段の一つです。
ペーパーレス化の徹底 | 請求書や領収書などの証憑書類を電子化することは、経理DXの第一歩です。電子帳簿保存法への対応はもちろん、紙の書類管理にかかるコスト(印刷費、保管スペースなど)や手間を削減し、リモートワークへの移行も容易にします。 |
クラウド会計システムの導入 | 銀行やクレジットカード、電子マネーなどと連携し、取引明細の自動取得や仕訳の自動化を実現します。AIが勘定科目を提案してくれる機能を持つツールもあり、入力作業の大幅な削減と人的ミスの防止に貢献します。また、リアルタイムで経営状況を把握できるようになり、経営判断の迅速化にもつながります。 |
経費精算システムの導入 | 従業員の経費申請から承認、精算までのプロセスを電子化・自動化します。領収書のペーパーレス化やキャッシュレス決済との連携により、入力作業の手間や確認作業の負担を軽減し、不正防止にも効果的です。 |
AI-OCR・RPAの活用 | AI-OCRは紙の請求書や領収書をスキャンし、文字データを自動で読み取りデータ化します。RPA(Robotic Process Automation)は、定型的なデータ入力やファイル整理といった反復作業を自動化し、大幅な時間削減と入力精度の向上をもたらします。 |
BI(ビジネスインテリジェンス)ツールの活用 |
経理データだけでなく、販売データなど様々なデータを統合・分析し、経営状況を分かりやすく可視化します。これにより、経営層はより迅速かつ的確な意思決定が可能になります。 |
自社リソースに限りがある場合や、専門性を強化したい場合には、経理業務のアウトソーシングが非常に有効な戦略となります。
✅アウトソーシングのメリット
専門性の確保・人手不足の解消 | 経理のプロに業務を委託することで、簿記の知識や経験が豊富な人材を迅速に確保でき、自社の人手不足を解消します。 |
コア業務への集中 | 定型的な記帳業務や経費精算、給与計算などを外部に委託することで、自社の経理担当者は資金計画、予算管理、業績分析といった経営に直結するコア業務に集中できるようになります。 |
コスト削減 | 経理担当者を雇用するよりも、アウトソーシングの方がトータルコストを抑えられる場合があります。人件費だけでなく、採用・育成コスト、設備費なども削減できます。 |
内部不正・人的ミスの防止 | 外部の専門家によるチェック体制が加わることで、内部不正のリスクを低減し、人的ミスも減少します。 |
法改正への迅速な対応 | アウトソーシングサービスは法改正に関する最新情報や専門知識を有しているため、自社で対応する手間を省き、適切な対応が可能になります。 |
✅デメリットと対策
ノウハウ蓄積の課題 | 業務を外部に委託することで、社内に経理のノウハウが蓄積されにくいという側面があります。対策として、業務範囲を明確にし、定期的な報告会や業務プロセスの共有を行うことが重要です。 |
情報漏洩のリスク | 会社の機密情報(伝票、給与情報など)を外部に渡すため、情報漏洩のリスクが懸念されます。信頼できるアウトソーシング先を選定し、情報管理体制やセキュリティ対策を十分に確認することが不可欠です。 |
✅アウトソーシングに適した業務
定型業務 | 記帳代行、経費精算処理、給与計算、振込代行、請求書発行など。 |
専門性の高い業務 | 年末調整、税務申告、固定資産管理など。 |
✅サービス選定のポイント
依頼したい業務範囲、セキュリティ体制、実績、費用、自社システムとの連携可否、継続的なサポート体制などを総合的に評価することが重要です。
業務効率化は、単に作業時間を減らすだけでなく、従業員がより働きがいを感じ、能力を発揮できる環境を作ることも目的とします。
リモートワーク・ フレックスタイム制の導入 |
ペーパーレス化やクラウドツールの導入により、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方が可能になります。これにより、従業員のワークライフバランスが改善され、モチベーション向上や離職率の低下にもつながります。 |
他部署連携の強化 | 経理部門と他部署間のコミュニケーションを円滑にするため、定期的なミーティングの設定や、チャットツール、情報共有システムなどのITツールを活用し、情報共有の仕組みを強化します。これにより、確認作業の手間や差し戻しを減らし、業務全体のスピードアップを図ります。 |
業務の見直しと 改善を促す文化の醸成 |
一度効率化すれば終わりではなく、PDCAサイクルを回し、常に業務プロセスの改善を目指す企業文化を醸成することが重要です。従業員が自ら改善提案できるような環境を整えることも、エンゲージメント向上に寄与します。 |
従業員のスキルアップ支援 | DX推進に伴い、新しいツールやデジタル技術に関する知識習得は不可欠です。社内研修の実施や外部セミナーへの参加支援を通じて、経理担当者のスキルアップを積極的に支援します。これにより、定型業務から解放された時間を活用し、データ分析や経営への提言といった付加価値の高い業務へのシフトを促します。 |
自社だけで業務改善を進めるには、専門知識や客観的な視点が不足し、途中で頓挫してしまうケースも少なくありません。その際、外部の経理コンサルティングサービスの活用が有効です。
専門家による現状分析と改善提案 | 経理改善に特化したコンサルタントは、豊富な実績と専門知識に基づき、現状の業務フローを客観的に分析し、最適な改善策を提案します。 |
業務フロー構築・ システム導入支援 |
「ムリ・ムダ・ムラ」のない効率的な業務フローの設計、最適なITツールの選定から導入、運用支援まで一貫してサポートします。 |
マニュアル作成支援 | 属人化解消のためのマニュアル作成や、従業員への実務指導も行い、持続可能な業務体制の構築を支援します。 |
経営戦略への貢献 | 早期の月次決算実現や、部門別・プロジェクト別の採算管理など、経営判断に資する情報提供の仕組み構築をサポートし、経理部門の戦略的役割への転換を支援します。 |
実際に経理業務の効率化に取り組んだ企業では、以下のような成果が報告されています。
事業拡大による業務増と属人化に直面していた企業が、経理アウトソーシングを利用することで、月に20時間かかっていた経費精算業務を1時間にまで短縮し、他の業務にリソースを割けるようになった事例があります。
クラウド会計ソフト導入でつまずいた企業が、経理改善に長けた税理士法人の支援のもとアウトソーシングとクラウド化を進め、毎月15日には月次試算表を出せるようになり、経営スピードが向上しました。
オンプレミス型システムや手作業に依存していた企業が、クラウド型システムの導入と業務プロセスの見直しにより、属人化を解消し、ヒューマンエラー削減とテレワーク対応を実現しています。これにより、優秀な人材の確保にもつながっています。
これらの事例からもわかるように、経理業務の効率化は、単なる作業時間の短縮に留まらず、企業全体の競争力強化に大きく貢献します。
経理部門の働き方改革と業務効率化は、現代の企業経営において避けて通れないテーマです。残業削減や生産性向上を実現することは、従業員の満足度向上、人件費削減といった直接的なメリットだけでなく、経営判断の迅速化、ガバナンス強化、内部統制の精度向上といった企業全体の基盤強化にもつながります。
本記事で解説した、
という5つの戦略は、相互に連携し、より大きな効果を生み出します。
経理部門がルーティンワークから解放され、戦略的な役割を担う「未来志向の経理部門」へと進化することで、企業は激しい市場変化の中でも持続的な成長を遂げることができるでしょう。
経理部門が抱える課題に対し、どのようなアプローチが最適か、専門的な知見が必要な場合もあるかもしれません。経理業務の効率化、働き方改革でお悩みなら、ぜひStepBaseにご相談ください。状況に合わせた最適なソリューションをご提案し、残業削減と生産性向上、ひいては企業全体の成長を強力にサポートいたします。